危険運転致死傷罪と速度と停車

東名高速道路で昨年6月、「あおり運転」を受け停止した車にトラックが追突し、夫婦が死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪などに問われた被告の裁判員裁判による判決が今日14日、横浜地裁であった。裁判長は同罪の成立を認め、「執拗(しつよう)な犯行で、刑事責任は重大」として懲役18年(求刑懲役23年)を言い渡した。現行法では妥当な判決と思う。

少し残念なのは、判決を伝えるワイドショー番組に出演する弁護士の中には、停車中の速度0(ゼロ)に対して、危険運転致死傷罪で罪に問うのは罪刑法定主義に反すると解説している事である。文系の方なので仕方は無いが、速度とはあくまで相対速度であって、どの慣性系で論じるべきかを絶えず意識しなければならない。

一般道における運転中とは、車と道路面との相対速度が0(ゼロ)より大きい範囲と解釈するのは自然で良い。しかし、自動車専用道路での運転中とは、車と路面との相対速度を指しているのではなく、周囲を走行中の車との相対速度であると解釈しなければ、正しく危険度を評価出来ないことになる。

そもそも危険運転致死傷罪の条文には、運転中とは道路面との相対速度を持って定めるとでも書かれているのであろうか? もしも定義されていないなら、自動車専用道路では周囲の車との相対速度が0(ゼロ)が、安定した車間が期待できて、一番に安全な状態である。言い換えれば、停車している場合には、周囲の車との相対速度が非常に大きくて最も危険な状態であるとも言える。この相対速度の解釈でもって、今回の判決は正しく行われたと言える。

最後に、一般道と自動車専用道路と言う特殊条件下での考察を更に一般化するには、とうすれば良いかを考えなければならない。運転中の定義としては、道路交通法の範囲での道路の任意の空間を占有している事と定義するのが自然であると考える。即ち、運転中を速度で定義するのではなく、道路を占有している事実のみで定義すべきである。これが自然科学と法理との整合性を取る最良の定義と考える。