東京医科大学の裏口入学と男女差別:職業選択と入学試験におけるaffirmative action

東京医科大学では裏口入学問題に端を発して、遂には入学合格者の男女比率を操作している事が明るみ出た。テレビのワイドショーでは、連日この問題を大きく取り上げて放映している。

口利き入学させることで寄附金を多く集めたかった。系列病院を含めて長期継続雇用が期待出来る男性医師をより多く確保したかった。如何なる理由が有るにせよ、事前に公開していない条件で、大学入学試験の合格選別を行う事は決して許されるものではない。今一度、入学試験制度の透明化を徹底しなければならない。

一方で、今回の事件がきっかけとなって、医療制度が抱える構造的問題が正しく理解されるようになれば良い。ただテレビ局によっては、自由や公正といった社会規範と公益に基づく国家行政を、ことさら対立して捉えようと番組を構成している事が、少し気掛かりである。

医療問題を考える上での大前提を次に示す。医療制度は医師数を含めて国家が規制する事案である。これに納得しない人は無政府論者である。では納得して、問題の各論を提示して考察する。

第一の問題は、親の経済力による差別である。
日本国の医師数は国家権力で規制される公益性が非常に高い職業である。当然その入学門戸は平等に開かれたもので、全ての医学部に於いて願書の提出から卒業までに掛かる全ての費用に、差別が存在してはならない。逆に言えば、学費の大学間格差はどの程度までなら許容されるかが重要である。しかし今この瞬間も、私学医学部で学ぶに必要な学費は、高所得世帯でなければ捻出できない金額であることは、周知の事実である。医学部の総定員数に占める私学の割合は非常に高いことを考えると、医業に関しては、生まれながらにして職業選択の自由は無く、封建的制度で国が管理している。私自身も幼い頃から、私学の医学部は金持ちしか行くこと出来ないと実感してきた。医学部の学費問題は、今回報じられている男女差別以上に深刻で前時代的な人権差別である。従って、古くは設立が国立、公立、私立に関わらず、医学部の学費差別を無くす事が最大の急務である。

第二の問題は、労働対価である。
私の知る限り、大学病院や地域の基幹病院に於いて、診療科別で給与額に差を設けている例を見たことがない。診療科別に平均労働時間が異なることは医療従事者に於いては周知の事実であるが、納得できる給与差は存在せず均一である。また、一度選択した診療科を将来変更することは現実的には不可能であることを考え合わせると、長時間重労働が予見される診療科を選択する研修医は少なく、悪循環を繰り返して、今の診療科に於ける医師の偏在の問題となっている。同一労働には同一賃金、すなわち重労働には高収入であるべき。この問題の解決法としては、診療報酬の技術料で調整する以外に思い浮かぶものは無い。労働対価の公平化に立ちはだかる病院運営上の壁は大きいが、必ず成し遂げてほしい。

最後に第三の問題として、生物学的な男女差である。
妊娠出産は女性のみである。平均的腕力・体力には男女差がある。この生物学的性差と診療科別の至適男女構成比を切り離して考えることは出来ない。使命感と根性論で解決するには限界がある。この問題が入学試験に於ける男女差別の動機であることを忘れてはいけない。生物学的男女差の事実に基づいて、演繹的に男女別の入学者数を設定するのが国の仕事である。

Life scienceは、正しくaffirmative actionを実践できる。